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伝わらなきゃ意味がない~千葉県の記録的大雨を振り返る~

こんにちは!
気象予報士・お天気キャスターの小林正寿です。

きのう25日(金)は、千葉県を中心に記録的な大雨となりました。大雨により被災された方々に、お見舞い申し上げます。

この記事では、記録的大雨や被害拡大の要因について詳しく解説します。

半日で1か月分の雨量に

25日(金)の一日に降った総雨量を振り返ると、千葉県や茨城県、福島県浜通りを中心に雨量が多くなり、オレンジ色の表示、200mmを超えた所もありました。

   

最も雨量が多くなったのは、千葉県市原市牛久で285.0mm。

先日直撃した台風19号のときに降った雨量が176.5mmでしたので、台風が来たときよりも降ってしまったというわけです。

また、10月の1日で降る雨量の記録を塗り替えました。

さらに驚くのは、実際はおよそ半日で降ってしまったということ。

市原市牛久の平年の10月1か月分の雨量が218.6mmですので、ひと月かけて降るべき雨量を、半日で簡単に超えてしまったんです。

同じ雨量でも、長い時間をかけて降るより短い時間でまとまって降ってしまう方が、大きな災害に結びつきやすいんです。

排水が追い付かなかったり、土の中の水が抜ける時間がないため、大規模な浸水や土砂災害、河川氾濫に繋がってしまいます。

記録的大雨がもたらした3つの災害

先に述べたように、今回、甚大な被害が出てしまった原因は、『短い時間で記録的な大雨になったから』だといえます。

きょう26日(土)になって晴れてきて見えてきた爪痕。

気象衛星ひまわりで、海に見られる赤茶色の部分は、川から流れ出てきた土砂です。

台風19号の時にも明瞭に見えたのですが、今回の大雨も相当な量であったことがよくわかります。

26日(土)昼現在で、千葉県で9人、福島県で1人の方が亡くなられました。

亡くなられた原因は、土砂災害に巻き込まれてしまったり、乗車中の車が浸水してしまったこと、などだそうです。

千葉県で雨が降っていたのは、朝6時~夕方の6時頃のおよそ半日。

大雨のピークは午後でした。

下の画像は、25日(金)午後2時の浸水の危険度を表したもの。

雨の降り方のピークを迎えてすぐに危険度が高まったのは、浸水でした。

1時間におよそ50mm以上の雨が降ってしまうと、排水が追い付かず、あっという間に浸水してしまいます。

濃い紫の所は、災害が発生している可能性がある場所ですが、だいぶ広がっていますよね。

実際に、水が人のお腹くらいまで達するほど、道路が冠水している所もありましたし、線路が水浸しになり電車が走れなくなるなどの被害がありました。

川にも影響が出てきて、千葉県では養老川、鹿島川など15の河川で、福島県でもいわき市を流れる宮川などで氾濫が確認されたということです。

下の図は洪水(河川氾濫)の危険度を表したものですが、氾濫の危険度が高い紫色の河川が、上記河川以外にも多くみられます。

非常に危険な状況だったことが、よくわかりますね。

記録的な大雨が続くと、土砂災害の危険度も増してきます。

ニュース等で、千葉県のあちこちで土砂災害が発生したと知りました。

大体200mm程度の雨が降ってしまうと、土砂災害が発生することが多いですが、今回も土砂災害の危険度を見ると、200mm程度の雨量が降った所と土砂災害が発生した所が、ほとんど重なっています。

 

我々お天気キャスターが警戒を呼び掛ける大雨災害は、浸水、河川氾濫、土砂災害の3つですが、今回はこの3つ全てにおいて甚大な被害が出てしまいました。

しかし、同一地域でこの3つの災害が全て同時に発生したわけではありせん。

川に近い所では氾濫のおそれがある。

崖がある所では土砂災害のおそれがある。

まわりより低い、くぼ地になっている所を中心に浸水のおそれがある。

平時からハザードマップ等を確認して、ご自身のお住まいの地域、行動される地域ではどの災害に警戒が必要なのか把握しておくことが大事です。

記録的大雨は『風のぶつかり合い』が原因

今回の記録的な大雨の原因は、何だったのでしょう。

台風の直撃と思っていた方も多かったようですが、実は違います。

原因は『風のぶつかり合い』です。

下の図は25日(金)12時の天気図です。

日本の近くには、高気圧と低気圧、台風21号がありますが、この周辺を吹く風が千葉県のあたりでぶつかり合っていたんですね。

風がぶつかり合うと、地面にはもぐりこめないため、上空に向かって上昇します。

これを上昇気流といいますが、空気が勢いよく上昇すると、どんどん雨雲が発達するんです。

下の図は千葉県周辺の雨雲がどの程度の高さまで発達したかを表した図ですが、風がぶつかり合うことで高度10~12km(ピンク色)程度まで発達していることがわかります。

この時期に雨雲が発達できる限界の高さは12kmくらいですので、ギリギリいっぱいまで雨雲が発達していたといえ、この成長しきった雨雲により記録的大雨となってしまいました。

伝わらなきゃ意味がない

記録的大雨から災害発生を防ぐのは非常に困難です。

しかし、我々お天気キャスターの役目は、災害から人の命を守ること。

災害が発生しても、人の命さえ守れれば、そう考えて毎日解説しています。

でも、実際は人的被害が出てしまいました。

人的被害が出てしまった原因は何なのか。

きのうからずっと考えていました。

台風が直撃しなくても大変な大雨になることは予想できていた。

記事に書いていた通り。

過去記事台風直撃しなくても大雨に~新たな災害発生に警戒~

じゃあ何で。

答えは、『台風が原因ではなかった』から。

台風19号が直撃したときは、皆さんも記憶に新しいと思いますが、約1週間前からテレビの天気予報やニュースで台風に対する注意喚起をし、直撃する前日までに食料を飲み水を確保したり、窓ガラスを補強したり、お風呂に水をためたりしていましたよね。

もちろん、直撃当日は、外出している人はほとんどいなかったはず。

でも今回は、学校にも仕事にも行っていて、いつもと変わらない一日を送っていた方が多かったと思います。

それは、『台風が直撃するわけではないから』。

そう思いました。

台風が直撃するわけではなかったから報道の数が明らかに少なかったし、また、インターネット等で台風進路図をご自身で確認し、台風が直撃しないことで安心感をおぼえていた方もいたかもしれない。

自分の伝え方はどうだったか。

自分のテレビやSNS等での伝え方を振り返るとこのような感じ。

危険さを伝えたい、でもオオカミ少年にならないように、実際に起こり得ることをしっかり考えたうえで伝えなければならない。

そう考えて、伝えたのが、『台風が来たときと同レベルの大雨』になるおそれがあるということ。

実際に、台風19号が直撃した時と同じくらい、もしくはそれ以上降ってしまいました。

そして、台風15号や19号の被害が残っている地域は新たな災害が発生するおそれがあることを伝えたうえで、いま何でもない地域でも大きな災害が発生するレベルの大雨であることをお伝えしました。

お伝えした内容と実際に起こってしまったことはほぼ合致。

でも問題なのは、この伝え方で視聴者の皆様に危険さが伝わっていたのかどうか。

どれだけ予報しても、どれだけ伝え方を工夫しても、伝わらなきゃ意味がない

今回の伝え方をもうちょっと見つめなおし、今後に向けてしっかり準備していきたいと思います。

ご意見等もいただけると幸いです。

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